カームダウン・クールダウンスペースのピクトグラムはどんなものなのか?
また、空港で「人がくつろいでいるピクトグラム」を見つけたけど、何をする場所なのか?
カームダウン・クールダウンの概念はまだ浸透していないので知らなくて当然です。
ですが東京オリンピック開催あたりから、空港をはじめとしてカームダウン・クールダウンスペースが設置されるようになりました。
JIS規格のピクトグラムも決定したので、今後は公共施設でも増えてくると思います。
この記事では以下の内容が書いてあります。
ピクトグラムとは?
カームダウン・クールダウンのピクトグラムが完成するまで
カームダウンについて知っておこう
カームダウン・クールダウンスペースがある場所
この記事を読み終えると、カームダウン・クールダウンについて詳しくなれます。
なぜこんな長い名称になったのか?ヒントはピクトグラムの作成時の会議にありました。
この記事を最後まで読むと、カームダウン・クールダウンのことはもちろん、ピクトグラム作成の苦悩も知ることができます。
カームダウン・クールダウンが少しでも身近に感じ、間違った使い方や、利用者への理解を深めるためにも、正しい知識を学んでおきましょう。
そもそもピクトグラムとは何か?
ピクトグラムとは、何をする場所なのかを見た目でわかるようにした案内用図記号です。
主に公共の施設で利用されており、言語が分からない外国の方や、小さい子供でも理解できるように図を使って用途を示しています。
東京オリンピックの開会式では、競技のピクトグラムを人が真似して少し話題になっていましたね。
身近なところでは、以下のようなトイレのマークや車椅子マークもピクトグラムです。
カームダウン・クールダウンのピクトグラム
カームダウン・クールダウンのピクトグラムは下の図です。
これは「間仕切りの中の椅子に人がくつろいで座る人」を表現しています。
カームダウンの意味を知らない人にとっては休憩室や待合室と間違ってしまいそうな図形です。
クールダウンという単語が入っているので勘違いしてしまいがちですが、このピクトグラムは休憩室や待合室を表現した図形ではありません。
このピクトグラムには「カームダウン・クールダウンスペース(室)」という正式名称があります。
カームダウンとクールダウンは似ていますがニュアンスが若干違います。
詳しくは以下の記事参考にしてください。
について正しく理解すると、この図形の本当の意味が分かります。
カームダウンについて正しく理解しよう
カームダウン(calm down)とは、気分や状態が「静まる・落ち着く・沈静化する」という意味があります。
空港などに設置してあるカームダウン・クールダウンスペースは、自閉症や知的障害、精神障害、発達障害、認知症、感覚過敏の症状をもつ方のための空間です。
このような特徴を持った人は、感情や緊張が高まり過度なストレスを感じるとパニックや癲癇(てんかん)の症状が出てしまうことがあります。
そんな時は、静かな落ち着ける場所で心を鎮めるのが有効ということが分かっています。
参考:障がい児のためのカームダウン環境(COZY Room)の開発・評価
公共の場にもカームダウンスペースがあれば、感情のコントールがきかなくなったり、人混みで自分を保てなくなりそうな時に心を落ち着かせることができます。
カームダウンの意味について詳しく解説した記事が以下です。
カームダウン・クールダウンのピクトグラムが完成するまで
カームダウンをする空間なので「カームダウンスペース」というピクトグラムにすれば良いように思いますが、策定の過程でカームダウンだけだと伝わりづらいという意見があったそうです。
カームダウン・クールダウンのピクトグラムは、意見交換会・作業部会・説明会・ヒアリング・試験等を重ねて決定しています。
エコモ財団のサイトに完成するまでの流れが記載されていましたので、抜粋して紹介します。
最初の名称候補は「カームダウン室」でした。
「周りから隔離して、気持ちを落ち着かせることができる小部屋」をイメージして作図されました。
この時点では、率先して空間の設置をしていた成田空港の「ハートマークをもとにしたデザイン案」があるという意見や、もっとシンプルにすべきという意見がありました。
「室」は不要や、屋根を取り間仕切りを表現するという意見があり以下の図案が候補に上がりました。
表記については、「新しい概念なので啓発や説明が必要」や「クールダウンという言い方をしている」という貴重な意見がありました。
当事者団体のヒアリング結果を重視し、名称は「カームダウン」に変更。
間仕切りの中に座る人を図案に作成。
上記の図案だと「利用しない人は図を見ても分からない」「そもそもカームダウンという言葉を初めて聞く」「パニックを未然に防ぐ場所とパニックを起こしてから避難する場所の2通りの使用用途がある」という意見がありました。
名称を「カームダウン Calm down」に変更。
名称を「カームダウン(クールダウン)Calm down(Cool down)」にし、試験を実施。
日本人362名・外国人88名の合計450名に対して試験を実施したところ、理解度はわずか7%・視認性は68.8%という結果でした。
理解度が10%未満で、待合室・休憩室という認識をする人がほとんどでした。
視認性についても若干問題があるものの、まずは理解向上を先に検討するという結果になりました。
カームダウンだけでは分かりずらいので「クールダウン」も併用して欲しいという意見。
カームダウンの概念が一般的ではないので、図記号を広報しつつ啓蒙していくのが現実的。
文字による補助表示で理解度が上がればよいという意見もありました。
名称を「カームダウン・クールダウン Calm down,Cool down」に変更し、図記号は待合室に誤解されないように角度を緩くし疲れた様子を再現。
椅子の背もたれを高くしリラックスした様子を表現
名称について「カームダウン・クールダウン」を日本語で表現できないか?という意見もありましたが、適切な日本語名称はなく、カタカナのまま周知・啓発をしていく方向で。
カームダウン・クールダウンを一語で使用し、日本語表現は未来の課題とし補足説明で対応したい。
名称については、他にも多数の意見が出ていました。
はやり概念自体が浸透していないので名称選びも大変だったのが分かりますね。
図については、新国立競技場整備事業からも案が出ており、成田空港も先に掲示しているピクトグラムがあり、統一することが最重要であるという意見がありました。
また、椅子があることで待合室感が出てしまっているという意見や、囲いは不要では?という意見も出ていたようです。
これらの意見をもとに第5回作業部会が開催され、以下が最終決定しました。
名称:「カームダウン・クールダウン Calm down Cool down」
図記号:間仕切りの中の椅子にくつろいで座る人
周りから独立して、気持ちを落ち着かせることができる小空間を表示。屋根がない間仕切り空間に表示することも可とする。
補助表示:文字による補助表示は、独立した小空間であれば「カームダウン・クールダウン室 Calm down, cool down room」、間仕切りなどで区切られた空間であれば「カームダウン・クールダウンスペース Calm down, cool down space」とする。
また、「この部屋は気持ちを静めるための部屋です」「このスペースは、気持ちを静めるためのスペースです。皆様のご配慮をお願いいたします。」など、運用に適した利用説明の表示をつけることが望ましい。
この流れを見ると「カームダウン・クールダウン」という長い名前が採用されたのも仕方ないと感じますよね。
カームダウン・クールダウンスペースがある場所
現在執筆中です。
ピクトグラムの決定までの流れを見てわかること
ピクトグラムが決定するまでの流れを見ると、概念がないものを決定していくことの大変さが伺えます。
今後、名称が省略されたり、日本語の名称が呼ばれたり、未来でどのように変化していくか分かりません。
ですが、省略されたり新しい呼び名が自然に広がっていくほど、概念が浸透することが大切だと思います。
まだまだ、日本では馴染みがない言葉ですが、今回の記事をきっかけに少しでも身近に感じてもらえると嬉しいです。